問題行動 悩みの相談室

 ジャワ舞踊留学をしていた頃、当時の自分には理解しがたいジャワ人たちの行動に何度も出会いました。舞踊を習う過程で、先生たちは、テクニックだけじゃなくジャワ人の考え方や生活の仕方を学ばなければならないと口をそろえて言いました。自分が舞踊を少しずつできるようになって、すべてではありませんが、いくつかの不思議な行動のワケがわかり始めました。ジャワ舞踊はそれだけで存在しているものではありません。生活と結びついています。自分とは異なる文化の網の目の中に入り、そこで大切にされていることを知ってやっと踊れるようになるのだと思います。

 何度かに分けて、以前書いた留学中のいくつかの印象的なエピソードを紹介したいと思います。

1つ目です。 

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 僕は舞踊やガムランの先生の家へ遊びにいくとき,アポは取らない。いきなり行くのだ。その方が,いさぎよい気がする。無駄足を踏む覚悟。そもそも僕が留学当時,ジャワにも日本にも携帯電話はまだなかったし、ジャワの多くの家には、固定電話もなかった。何人かの先生の家には、電話があったが,それでもたいがいはアポなしで行った。ただ、先生の邪魔にならないように,先生や家族の行動やスケジュールを予測して,曜日や時間の狙いを定めた。月曜日の夜8時頃だったら間違いない、とか。空振りすることもあったが,出直せばいい。ジョグジャは狭いんだし・・・。で、だいたいは外れなかった。ジャワの普通の人たちもこんな感覚だったんじゃないだろうか。先生の家に着くと,子どもやお手伝いさんが出迎えてくれ,入り口近くの応接間や椅子で待つことになる。甘いお茶やお菓子,時には揚げ物や果物が出てくる。でも、それには手を付けない。3回くらいはすすめられないとね・・・,なんだか日本人みたい。 

 たとえば、こんなことがあった。男性舞踊の名手のP先生を訪ねると、まずは奥さんが出てきた。お茶をだしてくれて,応接間で待つことに。家族の写真などを眺める。しかし、P先生がなかなか出てこない。中にいるのは、気配で分かるんだけど・・・。途中でバシャーン,バシャーンと水音が聞こえたりもする。2、30分すると,ようやく濡れた髪にくしを当て,ぱりっとしたYシャツに着替えた先生が登場するのだ。よくやってきたと言って,握手をする。いい香りが漂ってくる。 

 何年か経って,P先生とかなり仲良くなってきたあるとき、こんな話をしてくれた。あのね、僕はほんとは丘の上の大きな家に住みたいんだよ。で、家の前のベンチに腰をかけて,ゆっくりとくつろいでいると,マス・シン(マスはジャワの敬称)がバイクに乗ってくるのが,遠くから見えるんだよ。そうすると、僕はマンディ(水浴び)をする。ゆっくり着替えていると,マス・シンがちょうどやってくるんだ。小さくても一国一城の主が客人を迎える、そんなのが理想なんだよ,と小さな家の小さな応接間で語ってくれた。P先生の舞踊には、なんともいえない風格が漂っている。いつもこころの中に、ワヤン(影絵芝居)に出てくるヒーローが住んでいるのだ。 

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 みなさんの周りに、理解しがたいような行動をする人がいるでしょうか。あるいは、自分の行動を問題行動だと言われたことがあるでしょうか。そういった行動には、なにかワケがあると思うのです。意図や意味でなくても、なにかそうさせるワケがあると思うのです。それを、みなさんと共に考えてみたいと思うのです。いつくかエピソードを紹介しているうちに、何か思い当たる行動がありましたら、ご紹介ください。

2 Thoughts on “問題行動 悩みの相談室 01”

  • ウェブマガジンの刊行、おめでとうございます!ビジュアルも楽しめる素敵なマガジンですね!
    初回のエッセーもとても味わい深いです。どの国、どの土地にもこういう人生の達人がおられますね。
    さて、問題行動悩みの相談ですが、すぐに自分の年齢を忘れるというご相談です。
    否、忘れているのではなく、意識していないといった方がいいですね。年齢相応の落ち着きがなく、初対面の人でもすぐに信用してしまう。人になつく、好きになる、概して軽はずみなのです。
    最近も近所のおじさんと文通を始めてしまいました。
    若い頃ならいざしらず、いつまでたっても子どもみたいに感情がくるくる動き、自己嫌悪に陥ります。どっしりと落ち着き周囲から一目置かれるようなオトナになるのは無理でしょうかね?無理ですね。

    • コメントお寄せいただきありがとうございます!いただいたご相談にお返事の記事がアップされました!→「問題行動悩みの相談室02」http://mdkdm.com/onayami002/をどうぞご覧ください。

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