学生時代、インターネットがなかった時代。仲間を求めていたが、見つけ方がわからない。大学の掲示板などに無許可で、どんどん貼り紙をした。こんなやり方で学内の仲間が増えた。他大学にも無許可で貼りまくった。少しずつだが、他大学からも反応があった。しかし、もっと大学生以外の人々とも接点が持ちたい。どうやって輪を広げていけばいいのか?

 そこで考えたのが図書館で借りた本にメッセージを挟むということだ。自分が興味のある本に興味を抱く人は、自分と似た思考をするかもしれない。そこで、図書館で本を読むふりしては、こっそりメッセージを挟み込んだ。現代音楽関係の本、民族音楽関係の本など、できるだけマニアックな本に挟んだ。

 次に、本屋で立ち読みするふりをして、本に挟み込んだ。本に挟むのは書店員さんに見つからないように、メッセージを書いた小さな紙切れを右手に持っておき、ページをめくりながら、そっと本に挟む。

 どんなメッセージを書いたのか、30年以上前のことなので記憶はあやふやだが、「この本に興味を持つあなたとぼくは、何か似た興味があると思います。ぼくは京大の学生で、作曲サークルLASを作って活動しています。本気で現代音楽の世界を根底からひっくり返すような音楽を作りたいと思っています。そのための仲間が必要です。よかったら連絡してください。」というようなことを書いた。

 次にやったのは、公衆電話。当時は、テレクラの広告が公衆電話ボックスによく貼られていた。美術館の前の公衆電話にも、テレクラがいっぱい貼ってあった。そこに、ぼくのメッセージを貼り付けた。美術館に来た人が偶然電話をかける際に、テレクラの広告の中に、現代音楽を志向する若い学生のメッセージを見て、どんな反応があるか投げかけたかった。

 このメッセージに自分の電話番号を記したのならば、まだ許される。しかし当時、ぼくの下宿には電話がなかったので、作曲サークルLASメンバーの小林薫さんの電話番号を書いたのだが、これは本当に問題行動だったと、今は思う。結局、ほとんど反応はなかったものの、こんなメッセージに反応してくる人は強烈な個性を持っていた。特に、本屋で見て強い共感を持って連絡してきた上沼正道さんは強烈だった。パフォーマンスアーティストでヒッピー。元美術教師で元塾講師。無職で家賃滞納で食費にも困っていたのに、パフォーマンスに命をかけている。フルクサスについて、具体美術について、パンクロックについて、延々説教する。上沼さんに振り回されることも多かったが、それでも、ぼくは自分のメッセージを受け取ってくれて、一緒に考えてくれる先輩の出現を大いに喜び、率先して振り回された。そんな中、ヨシダミノルさん、奥田扇久さん、五島昭彦さん、向井千恵さん、藤井景化さん、荒木緑さんなど強烈な個性を持つ大人たちに次々出会った。

つづく

2 Thoughts on “04. 本の間にメッセージを投げる”

  • 上沼正道さんを探していて、検索で、ここがヒットしました。80年代に、上沼さんが作った8ミリを貸してもらって、そのまま何十年もすぎました。いつか、お返しせねばと思ったまま。連絡先、ご存知なら、教えていただけませんか。

    • 上沼さんが今どこにいるのか、わかりません。30年以上音信不通です。これまで、国内外、様々な土地を旅して活動してきましたが、上沼さんの噂を聞くこともなく、どうしているのだろう、と思っています。

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