小学校の時、クラスメイトと野球をして遊んだ。野球の試合中、よく選手は掛け声をかける。「オーライ!」、「ドンマイ!」、「リーリー」、「しまっていくぞー」、「かっとばせー」、「ピッチャーびびってるよ!」など。小学生のぼくには、これらの掛け声が画一的で、なんだかつまらなく思えた。だから、自分独自のスタイルで声を出した。人が決して出さないような変な声や、文脈に無関係な言葉で、相手の意表をつくのだ。名付けて「奇声戦術」。

 例えば、ピッチャーがボールを投げる直前に奇声を出してピッチャーのコントロールを狂わせるのは、ぼくの得意技だった。真剣に投げようと集中している時に、絶妙のタイミングで予想もしないような変な声を出すと、ピッチャーは、たいてい笑えてきて力が抜けてちゃんと投げられない。しかし(投げないとボークになるので)ピッチャーはなんとか投げるのだが、これが大暴投を誘発したり、力が入らずにスローボールになる。このスローボールを打って活躍するというのが、ぼくの作戦だった。なにせ、普通に野球をやっても打てなかったので、工夫するしかなかったのだ。

 自分の打席の時だけでなく、味方のバッターが打席の時にも、奇声戦術は効果を発揮した。しかし、相手のピッチャーも笑うのだが、味方のバッターも笑って打ち損じてしまい裏目に出ることもあった。

 中学時代、クラスメイトと些細なことで意地の張り合いになった。実は、彼はツッパリグループの一員で、放課後に校門の外に呼び出され、行くと集団に取り囲まれた。喧嘩になったら勝ち目はない。ぼくは大声で奇声をあげたり、変な音程の歌を歌った。彼らは戸惑った表情で笑った。戦意を消失して、「おめえ、面白いな。大声で歌いながら帰れ。家までやめるなよ」という命令がきた。ぼくは難局を逃れ、変な声を出しながら帰路についた。

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